ルナティック・アグリカルチャー
マヤ遺跡の中でも数少なくなってきた、登れるピラミッドがあるコバ遺跡。
コバは500年〜800年頃に栄えたマヤの都市国家の一つですが、その近辺には今もかつての時代に近いような暮らしを送っている人々が住んでいます。
マヤの人たちや中南米の先住民の農法で、月の暦を指針とした自然農法、ルナティック・アグリカルチャーと呼ばれている方法があります。
私がこの農法を知ったのは、北海道は長沼町の図書館で借りた1冊の本、「月と農業/ハイロ・レストレポ・リベラ」がきっかけでした。
中南米に広く伝わるこの農法では、新月から満月へと月が満ちていくとき、つまり月が膨らんでいくときに水分(養分)は植物の上部へ拡散していき、満月を中心とした前後3日間に水分(養分)は樹冠の葉、花、果実に集中するとされています。
そのため、播種は月が膨らんでいくとき(新月から満月)に行われ、収穫は満月の前後に行われます。
満月が近いとき作物には水分(養分)が集中しているので、その時が旬で最も美味しく長持ちするそうです。
月の満ち欠けが潮の満ち引きを作り出すほどの強い力があるのだから、植物内部の水分も同じように影響を受けるという理論は至極当然なのではないかと感銘を受けました。
コバの町から縦に伸びる道を北上すると、ヌエバドランゴという小さな集落があります。
そこで、今もなおマヤの暮らしを続けている家族の元を訪れる機会がありました。
彼らは自分たちの家を開放しており、訪れる観光客を受け入れています。
家では民芸品を売ったり、マヤの文化を紹介しています。
私たちとはスペイン語で話してくれますが、家族間の会話はマヤ語です。
お父さんは現役のシャーマンで、観光客が来たときには家族みんなで楽器を演奏してくれるそうです。
食事の煮炊きは薪や炭を使っています。
祭壇にはたくさんのグアダルーペが祀られていました。
家の裏には教会も。
マヤの暮らしを続けている地域ですがキリスト教も根付いています。
幸運にも彼らの畑を見学させてもらう事ができました。
本で読んでいた月の農法を実践している農家さんの畑なので、胸が高鳴ります。
家の裏の雑木林を抜けていくと、急にぽっかりとした空間が広がり畑が現れました。
以前読んだマヤ文明に関する本では、マヤ文明が衰退した原因の一つには人口増加による食糧難が起き、その際に森林を伐採して畑を切り開いたために循環していた環境が破壊され生態系が狂ったことが原因だとする説が唱えられていました。
その経験が現在に伝わっているのか、はたまた読んだ本の情報が違っているのか、シャーマン農家のお父さんは
「マヤの世界では土地の形を形成する事は禁じられているので、自然の地形に手を加えない」
とおっしゃっていました。
雨期の前に豊穣を願う儀式を行い、月の暦に従って種を蒔き、その後はほとんどほったらかしのようです。
自然のサイクルにのっとった自然農法。
現代の農法と比較すると非効率な部分もありかもしれませんが、マヤの人たちはこの営みを2000年、もしかするともっと長い時間続けています。
育てていた作物はトウモロコシとカラワサ(ズッキーニかかぼちゃ)。
ユカタン特有の石灰質の地表の上に軽く表土が乗っている程度。
決して肥沃な土壌には見えませんでしたが、作物は力強く育っています。
畑の真ん中には木が組まれていました。
聞くと炭を作っているそうです。
畑での炭作りはただ森林を切り開く焼き畑農法と違って、炭もできるし土壌も肥沃になるので、より環境負荷の少ないサスティナブルなアイデアです。
組んだ木の上に土をかぶせ、燻すように燃やし続ける事3日間。
火を見守り続ける必要があるため、炭を作っている期間はハンモックで夜を過ごすそうです。
出来上がった炭。
木を切り、盛り土を施し、燻し続ける。
約1週間かけての仕事。
雨が降らなければ作物は育たず、作物が育たなければ飢えてしまう。
それでも効率化を図る事はなく、彼らは月の力を信じ、祈りを続けています。
彼らにとってはその方が効率的なのでしょう。
トウモロコシを育てるために月の暦を、天体の活動を取り入れる農法、ルナティック・アグリカルチャー。
彼らの育てたトウモロコシには宇宙の大きな活動が、植物の中の小さな循環に落とし込まれています。
壮大なスケールだけど、とてもシンプルでもある農法。
収穫は雨期の終わりだそうです。
ぜひとも食べてみたい!
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