長野県にある、大鹿村という村をご存知ですか?
一見すると特に変わったところのない普通の山村なのですが、なぜかそこには昔から、自然と共に暮らす事を選んだ移住者が住み着いたり、旅人が訪れたりと、なんとも言えない不思議な魅力がある村なんです。
村からは雄大な南アルプスを望む事ができ、大鹿歌舞伎という300年以上前から続く伝統芸能のお芝居文化が今も残っています。
決して優しい自然環境ではないですが、湧き水が湧いていたり、山の中から塩の温泉が湧いていて、その温泉を煮詰めて塩を作っていたり、自然の恵みに多様性があります。
また、サブカルチャーとして、村の北端には分杭峠というゼロ磁場の場所があってパワースポットとして知られていたり、私の好きな詩人、
ナナオサカキさんが最後に住んでおられた家があったりします。
私もMiaに紹介してもらい、村に何度か滞在する機会があったのですが、リピートしたくなる魅力が確かにあります。
さて、そんな大鹿村が今、直面している問題があります。
それはリニア中央新幹線。
未来の乗り物だったリニアモーターカーは、いつの間にかもう実用化が近づいてきていて、東京と大阪をほぼ直線で結び、その想定所要時間はなんと67分。
時速500kmで走る予定だそうです。
すごいですね〜。
新幹線でも2時間かかるのに、1時間で東京から大阪へ行けると。
大阪〜東京間の通勤も夢ではないですね。
喜ぶ人もたくさん…いるんでしょうか?
リニア中央新幹線は、大鹿村を含む、南アルプスをずどーんとトンネルで貫きます。
ちなみに、大鹿村の地下には中央構造線という日本最大級の活断層が通っています。
日本列島は太平洋のプレートと、ユーラシア大陸のプレートの真上にあるのですが、その境目がまさに中央構造線。
プレートとプレートがぶつかって、大陸が隆起して山(南アルプス)になるということは学校でも習った気がします。
そこにトンネルを掘ってリニアモーターカーを走らせるという計画が、すでに決まっています。
それって、ちょっと怖くないですか?
自然環境も破壊されるし、そうまでして1時間早く大阪に着くことのメリットって、実際そんなにないんじゃねーの?って思うんです。
チーズ工房・アルプカーゼ
大鹿村に行くと、必ず立ち寄る
アルプカーゼというチーズ屋さんがあります。
敷地内の牧場で、化学肥料も農薬も使われていない牧草を食べて育ったヤギと牛。
そのミルクを使って作られているゴーダチーズなんですが、これが格別。
アルプカーゼのゴーダチーズはクセのないさっぱりとした味わいのチーズで、チーズフォンデュにもぴったり。
もちろん、そのまま食べてもとても美味しいです。
お店に行くと、チーズを薄くスライスして味見をさせてくれます。
これまた敷地内に湧いている湧き水で入れたコーヒーを添えて。
チーズとコーヒーが驚くほど合うんですよね。
若いチーズと、熟成が進んだチーズがあるのですが、熟成が進むと芳醇な香りが強まり、コクと旨味が強くなります。
食べ比べると、その違いがはっきりわかります。
どっちもそれぞれ美味しいので、結局どっちも買ってしまいます。
アルプカーゼのご主人は若い頃にチーズの本場、スイスでチーズ作りを学ばれた経験があり、その後、故郷である大鹿村でチーズ工房を始められたそうです。
私たちがいつもお世話になっていて、
いろいろ教えてくださるHさんの古い御友人でもあります。
そして、ここは湧き水もとても美味しいんです。
大鹿村には他にも水が湧いている場所がいくつかありますが、ここの湧き水はご主人が水源と取水口の間にろ過装置を作られているため、不純物(砂や木屑)が一切なくなっています。
なんでも、水源から湧いている水をタンクに貯めて、その上澄みだけを流す、という工程を二重にされているとか。
そのせいなのか、もともとの水質なのか、とにかく美味しいです。
口当たりもまろやかさも甘さも冷たさも完璧。
お店の横では、鱒が気持ちよさそうに湧き水の小川で泳いでいます。
アルプカーゼはチーズも湧き水もプレミア感があるんですよね。
クオリティが並外れて高い。
特別に贅沢なものを口にしている、という幸せな気持ちになります。
リニアと湧き水の天秤
さて、話は戻ってリニア新幹線。
そのルートのほとんどがトンネルになる、ということで、大規模なトンネル工事がもうすでに始まっています。
「南アルプスの天然水」という商品があるぐらい、もともと豊富に水を湛えている南アルプス。
地中の水脈を外してトンネルを掘ることは不可能です。
トンネルと地下水脈がぶつかると、当然工事によってできた穴から水は逃げていきます。
すると、井戸が枯れたり、川が枯れたり、水の流れに変化が起きます。
現在の予定では、大鹿村の水源の地下をリニア新幹線が走ることになっています。
このままでは、大鹿村の美味しい湧き水や温泉が枯れてしまうかもしれません。
大鹿村に馴染みのない人にとっては、やはり遠い場所で起こっていることだと思うので、なかなか実感がわかないと思います。
でも、一度あの絶品のチーズを食べて、湧き水を飲んでもらえたら、みなさんもこう思うはずです。
「東京から大阪まで1時間早く着けるかわりに、この環境が失われるなら…
リニア、別にいらないかも。」って。
中国に「鹿を追う者は山を見ず」ということわざがあります。
意味は、夢中になって獲物を追っかけていると、山全体が見えなくなり、道に迷って危険な目にあう。つまり、集中しすぎるとゆとりを失うということ。
目先の利益を追いかけて、他の大切なことが目に入らなくなる状態。
これ、大いに理解できます。
ことわざにあるぐらいですから、昔から人間は何にも変わらないのでしょう。
私も、
ギョウジャニンニクを摘むのに夢中になりすぎて、北海道の山でまんまと道に迷った経験があります。
そういう特徴があるんでしょうね。
でも、当事者じゃない人が横から声をかけることで、問題は食い止めることができると思うんですよね。
そんなわけで、横から言ってみます。
「鹿、追いかけすぎだよ。」って。