メキシコに来てから、湧き水を探し続けるもののなかなか巡り会えない日々でしたが、ついに見つけました!
ようやく見つけたその水が湧いているのは、グアナファトとメキシコシティの間にあるケレタロという町の近く、トラコテという小さな村。
調べてみると、トラコテの水は世界三大奇跡の水と呼ばれていて、多い時には一日数千人もの水を求める人が列を作り、2〜3時間の待ち時間は当たり前とのこと。
なぜメキシコの片田舎に湧いている湧き水がそんなにも世界の人々を惹きつけたのかというと、飲むと腰痛やアトピー、喘息の症状が緩和され、エイズや癌など重い病気に対しても病状改善効果が見られる、という奇跡の水だそうです。
その奇跡の謂れは、その湧き水の土地の持ち主チャヒンさんの犬が怪我をした時のこと。
今から20数年前、トラコテに足を怪我して歩けなくなってしまった犬がいました。
不憫に思った飼い主は、何もしてあげることができない歯がゆさから、せめて綺麗な水を飲ませてやろうと思い、犬を抱きかかえて水場に連れて行き水を飲ませました。
すると、今まで歩けなかった犬が再び歩き出したのです。
この時は何が原因で歩けるようになったのか不思議に思い、
「この水は魔法の水なんだろう」と冗談半分に犬の回復をただ喜んでいました。
しかしその後も体の不調を訴える人がこの水を飲むと回復することが続きました。
そしていつしか人づてにその噂が広がり、世界中から人が集まるようになったそうです。
その総数、延べ800万人。
その後、ウルグアイの病院で患者にこの水を飲んでもらった結果、病状改善に効果があるという臨床データが得られたり、日本の大学の研究で活性水素が通常の水の10倍近く含まれていることが判明したりしたそうです。
なんとも凄そうな水です。まさに奇跡。
これは是非飲んでみたいと思い、意気揚々とトラコテへ車で向かいました。
グアナファトからサンミゲルアジェンデを経由し、111号線を東に向かって走り、右折で57号線に入ります。その後モンパニという集落を通過してトラコテへ。
57号線の途中から道は未舗装になり、視界は開けているもののいつ行き止まりになってもおかしくないような雰囲気です。少し不安になり、すれ違った人に道を聞いてみました。
「もうすこし進むとモンパニあたりにたくさん人が歩いてるからそのまま真っ直ぐだよ」
感じのいいお兄さんにそう言われたのでその通りに進むと、確かにモンパニのあたりにたくさん人が歩いていました。集落のようですが建物はほとんど目につかず、ただ荒野を人がたくさん歩いています。
モンパニの人々のこちらに対する視線が、普段外国人はあまり通ってない道なんだということを表していました。
モンパニを越えると再び舗装された道路になり、10分ほどして奇跡の水が湧く村、トラコテ・エル・バホに着きました。
トラコテは何の変哲もないメキシコの片田舎という感じで、本当にこの村に800万人も来たのか?と疑いたくなるような普通の村です。
早速、売店のお姉さんにどこに奇跡の水が湧いているの聞いてみました。すると、今は開いてないとか、よく知らないとか、なんだか気だるい対応。
あまり歓迎はされていない様子でしたが、知らないはずはないだろうと思いもう少し突っ込んで聞いてみると、売店からわずか2、30m離れた施設が水をくみ上げている場所だということが分かりました。
この小さな村で世界的に有名になった水のことを分からないはずもないはずなのに、そういう対応をされるということは過去に嫌な思いをしたのか、また別の理由で水を汲みに来る部外者に良い印象を持っていないのかのどちらかだと思われ、この時点で少し違和感を感じました。
水汲み場の外観。なかなか大きな施設です。 |
村全体に漂う若干閉鎖的な雰囲気を感じながらも、売店のお姉さんに教えてもらった水色の扉をノックしました。
少し間があって、中から職員の女性が出てきてました。
”私たちは日本から来ていて水を飲んで汲みたい”ということを彼女に伝えると、少しはにかみながら扉を開けてくれました。
大丈夫そうです。歓迎されていない感じではありません。
一安心して少し話をしていると、敷地内へ入るようにと案内されました。
扉の奥には広い敷地が広がっていて、塀から何本も取水できるようなパイプが突き出ており、かつてはたくさんの人が水を汲んでいた景色が想像できました。
でも、その日は他に誰も水を汲みに来ている人はいませんでした。
白い壁から水色の取水パイプが何本も突き出ている。 |
奥へと進んでいくといくつかの建物が並んで建っていて、その一番奥の部屋で水を汲ませてもらうことができました。
部屋には新聞記事や臨床データの証明書、病院や政府からの感謝状が壁一面に展示されています。
過去にはあのモハメドアリも来てたようです。
メキシコに来て初めての湧き水。
ドキドキしながら飲んでみると…
水汲み場。壁一面に新聞記事などが展示されている。 |
クセはなく、口当たりが少し硬い感じ。硬水なのかな。
地下水のはずなのにそんなに冷たくはない。
施設の雰囲気もあり、山の中で湧いている水を飲んだ時のような体が喜ぶ高揚感はありません。
まあ普通の美味しい水です。
職員のお兄さんに何のための装置なのか質問してみるも、
「僕がここに来た時にはもうあったけど、何か知らない」とのこと。
後から詳しく調べてみると、かなり高濃度のミネラルを含んでいるようで(カルシウムは100倍以上、マグネシウムは200倍以上!)、森や山のような植物の多い地層を通過してきたというよりは岩盤を通ってきた水なのでしょう。
水素とミネラルたっぷりの水は、味というより効能がありそうです。
なんとなく秋田の玉川温泉を思い出しました。
長らく稼働していないであろうなにかの機械。哀愁が漂う。 |
20Lのガラフォン2つに水を汲ませてもらってその場を後にしました。
施設を出た後、重いガラフォンを車まで運んでくれたお兄さんにチップを渡そうと思っていたので、
「お金を払う必要はあるのですか?」と一応聞いてみました。
事前に調べていた内容では、持ち主のチャヒンさんは病気で困っているより多くの人に飲んでもらいたいという思いからこの場所を開放しているとのことでした。
お金を請求したことも一度もないと。
しかしお兄さんからは予想外の返答。
「ガラフォン2つだから200ペソかな。今は売っているからね」
…え?変わったの?あれ?
チップを払いたかっただけなのに少し残念な気分になりました。
納得できなかったので自分の思っていたイメージと違うことと、支払う必要があるのならなぜ最初に伝えてくれなかったのかと話してみると、
「払わなくてもいいけど、聞かれたからそう言ったんだよ。」と言われました。
結局、チップとして50ペソ支払いました。
なんだか後味の悪いこの感じ、一つの記憶がよみがえりました。
それはウアウトラという村での記憶。
オアハカの近くにあるウアウトラ・デ・ヒメネスという村には昔から幻覚作用のあるキノコを用いて精神療法を行うシャーマンがいて、独自な文化を形成していました。しかし、1960年代にビートルズや、ストーンズ、ボブ・ディランといった有名人が彼女の元を訪れたことで、こちらもトラコテの奇跡の水と同じように噂が噂を呼び、村には当時全盛だったヒッピーが大挙して押し寄せてしまいました。
結局サビーナはその後、村の神聖な儀式を世界に漏らした罰として村を追い出されてしまいました。
サビーナもチャヒンさんと同じく、善意と使命感を持ってセレモニーを行っていたようですが、結果として村の人から蔑まれ、寂しい晩年を過ごしたそうです。
現在はサビーナの一番弟子がそのセレモニーを継続しています。私が訪れた10年前の時点で1000ペソ程度でしたが、最近も同じ値段で続けているようです。
適正な値段をつけることで村の混乱を防ぐ必要があったのだと思います。
トラコテもウアウトラも同じような静かな村です。
村にあまりにも多くの人々が訪れ、対応しているうちに擦れたと言えばそれまでですが、村の人たちは自分たちの穏やかな生活を一変させてしまった強烈な人の欲望の波に傷ついたのだと思います。
奇跡の水も、キノコのセレモニーも、メキシコの魅力を感じさせてくれる素晴らしい文化や自然なのに、元々の愛が薄れてしまったように感じられるのが少し残念でしたが、奇跡の水を飲むことができたのは素直に嬉しかったです。
もしこの先トラコテの水を売るようになっても、自分がそこに価値を感じるのであれば喜んでお金を払って水を飲みたいと思います。
なお、こちらは月曜から土曜の夕方5時までオープンしているそうで、また訪れたいと思っています。ちなみにケレタロ方面から行くと道も全て舗装されていて気持ちのいい道です。
世界には魔法がかかったような場所や自然、文化や人がたくさん存在しています。
それらは時に人生観を大きく変えるほどの感動を与えてくれます。
今も続いているその魔法に対してリスペクトを持って接することが大切だと思いました。
興味を持って体験することが、対象を搾取してしまているような状態にならないように、貴重なものほど壊れる可能性が高いことを自覚して、自分を感動させてくれたものが持続できるような付き合い方を心がけたいと思いました。
Kenta Noguchi 様
返信削除始めまして。MK(イニシャルで、すみません)と申します。
こちらの記事を拝見しまして、
「トラコテの水」に行って来ました!
大変参考になりまして、ありがとうございました。
お礼が申し上げたくて、コメントさせていただきました。
為になる素晴らしいブログです。
時々寄らせていただきますね。
MK
MK様
削除はじめまして。コメント下さってありがとうございます!
わざわざ気持ちを伝えていただいてとても嬉しいです。
トラコテに無事辿り着けたようで良かったですー。
kenta